「アセット(asset)」は「資産」や「利点」という意味の英単語ですが、ビジネスや日常会話でもよく耳にしませんか?「アセット」の意味とは、なぜ日本語で言わずカタカナで表現するのか、カタカナにすることで生まれる微妙なニュアンスを分野別に類義語と例文セットで解説していきます。
「アセット」の語源は?
「アセット」は元々英語の「asset」をカタカナ語にしたものです。語源は古期フランス語 の「assez」で「十分に」という意味の言葉です。「十分」=「資産がたくさんある」=「強み」というイメージの言葉ですね。このイメージをおさえておくと色んな文脈の「アセット」の意味が覚えやすくなりますよ!
経済用語の「アセット」
一番メジャーな「アセット」の使われ方です。そのまま「資産」という意味で「株式」「為替」「不動産」などのお金にかえられるものをまとめて「アセット」と呼びます。また不動産業界ではアパートなどの不動産の金銭的価値のみを強調したい場合に「アセット」を使いますね。
また、今はお金に換えられる価値がなくても将来的にお金に変わるものを指す時に使うこともあります。たとえば、今は初期投資のせいで赤字だけど将来的にのびる可能性のある魅力的な新規事業なんかも含めて「アセット」と呼べます。なので単に「資産」と訳してしますとこのニュアンスが薄れてしまいます。
意味自体は簡単ですが、厄介なことに他のカタカナ語と組み合わせて使われることが多いです。そのためカタカナ語のダブルパンチでややこしくなったりしますので、頻出の複合語もセットで覚えてしまいましょう!
「アセット(資産)」+「マネジメント(管理)」=直訳で「資産管理」です。「管理」と言いますが、資産の所有者に代わって資産の管理・運用を行う業務のことを指します。所有者自ら資産管理をする場合はアセットマネジメントとは言わないので注意しましょう!
「アセット(資産)」+「アロケーション(配分)」=直訳で「資産配分」です。自分が今持っているお金をどの資産(株式、不動産、債券、金など)にどれくらい投資するか決めることです。分散して投資することで仮にいずれかが暴落しても全ての資産を失わずに済むので、リスクを回避しながら資産形成を行えます。「投資の作戦」のようなニュアンスで使われますね。できあがった配分のことを「ポートフォリオ(portfolio)」と言います。「アセットアロケーション」が作戦ならこちらは作戦指示書といったところです。
類義語|経済用語の「アセット」
こちらでは経済用語の「アセット」と混同しやすい意味のカタカナ語を紹介します。
直訳で「資源」という意味です。「アセット」の「保有することで価値を生み出し続けるもの」というイメージに対して「リソース」は消費してなくなってしまうものを指します。資材、労働時間(労働力)などの意味で使われます。
建築会社にたとえるなら家を建てる木材は建てたら会社からなくなってしまうので「リソース」ですが、得た利益はそのまま会社のものとなり、また新たな利益を生み出せるので「アセット」です。
直訳で「財産」という意味です。「アセット」との違いは金銭的価値に限らないという性格をもつ点です。アセットのうち株式などは金銭的な価値しかありませんが、アパートなどの不動産は金銭的価値以外にも人が住むことができるという実用的な価値もあるので「プロパティ」の性質も持ち合わせています。建物等の設備の管理を「プロパティマネジメント」なんて言ったりしますね。
例文|経済用語の「アセット」
解説:1000万円というまとまったお金が手に入ったのでそれを元手に資産運用の代行業務をお願いしようかなと考えています。
「この作業の自動化ツールを作りたいけどリソースが足りないなあ」
「でも作れば業務効率化に貢献してくれるわが社のアセットになるから外注してでもやってみよう」
プログラミングの「アセット」
プログラミングにおける「アセット」は「デジタルアセット」とも呼びますが、ここでの「アセット」は「素材」という意味です。ゲーム開発、CG制作では社内フォルダの容量の節約のために一度作ったパーツを他の箇所に使いまわすことがあります。
たとえば「スター・ウォーズ完結編」のスター・デストロイヤーはなんと400個のCGパーツをいくつも組み合わせて作っています!つまるところ、この400個のCGパーツが「アセット」です。スター・デストロイヤーのアセットは実はスター・デストロイヤー以外でも作中で使い回されています。気になった方は探してみて下さいね!
https://www.pen-online.jp/feature/culture/masatakanarita/2
ーーPen Onlineより
CG素材の他にも効果音、BGM、背景イラスト等もアセットと呼ぶこともあります。このようなアセットをたくさん持っておくと容量節約や制作が楽になるという「利点」がありますね!そんなニュアンスも込められております。
類義語|プログラミングの「アセット」
こちらではプログラミングの「アセット」と混同しやすい意味のカタカナ語を紹介します。
直訳で「部品」「成分」という意味です。単なる部品というよりは1つの機能を持って作られた部品というイメージで何かと組み合わせて使用します。ただこれ単体では目的を達成しません。
超ざっくり例えるならソフトウェアが家だとしましょう。「夜でも明るい快適な家が欲しいなあ」と思って家を作ろうとするときに、ネジがアセットでスイッチがコンポーネントです。スイッチは「電源をつけたり消したりできる」という機能がありますが、スイッチ単体では目的を達成することができませんね。
「1つの機能を持った部品の集まり」という意味です。日本語では直訳できる単語がありません。
「コンポーネント」と同じ?
と思われるかもしれませんが、若干異なっております。モジュールはそれ単体で動くことはできるけど、普通は色んなものと組み合わせて使い、単体では使いません。
再びソフトウェアを家に例えると照明装置がモジュールです。コンポーネントであるスイッチを取り付ければ簡単に電源がON/OFFできる機能がついて便利ですね。このモジュールで「夜でも明るい家が欲しい」の「明るい」という目的を達成できますが、普通は照明だけでは家とは呼べませんね。
例文|プログラミングの「アセット」
「この間発売した作品のアセット使いまわしたら容量削減できないかな」
解説:ゲーム会社のプログラマーが新作ゲームを作っていますが、新作ゲームのために作ったフィールドのCGの容量が大きくてパソコンの容量を圧迫しているみたいですね。他のゲームで作った岩や草くらいのCGなら多少使いまわしても大きく世界観を損なわないのではないでしょうか。
広告業界の「アセット」
広告業界の「アセット」は主にデジタル広告で使われます。大きく分けて2つの使い方があり「素材」もしくは「企業が保有するデータベース」という意味です。
「素材」というのは広告の説明文やタイトル、画像、動画のことです。プログラミングの「アセット」に似ていますね。Googleに広告出すためのキャンペーンマネージャーという機能ではこれらを「クリエイティブアセット」なんて呼んでいますね。
「企業が保有するデータベース」というのは広告を出したい企業の顧客データや自社ホームページのことを言います。たとえば、一度商品を購入したことのあるオンラインストアの広告をWeb上の色んな場所で何度も目にすることはありませんか?これはオンラインストアで購入時に登録した自分のメールアドレスを企業が利用して広告を表示させているためです。この登録したメールアドレスのデータ等を「アセット」と呼んでいます。
Web広告ではこういったデータベースを活用することでユーザーを狙い撃ちして広告を表示させているんですね。以下のリンクでかなり詳しく書いていますので気になる方は読んでみて下さい。
https://webtan.impress.co.jp/e/2017/11/21/27260
ーーWeb担当者Forumより
類義語|広告業界の「アセット」
類義語は特にありません。
例文|広告業界の「アセット」
「広告出したいけど予算が限られてるなあ」
「御社のアセットを使ってターゲットを絞りながらWeb広告出してみませんか?」
解説:全く興味なさそうなユーザーにまとめて広告うつよりは、顧客データから顧客の傾向を分析して似た属性のユーザーに広告を表示させれば、少ない広告費でも効果は絶大ですね!
公共事業の「アセット」
電気、ガス、水道、などのインフラ設備のことを指し示します。
それって「プロパティ」じゃないの?
と思った方、かなり鋭いです。
公共事業の「アセット」は使い方がちょっと変わっていて「アセット」単体では使いません。主に「アセットマネジメント」という形で使います。直訳するとインフラ設備の管理という意味ですね。
しかし公共事業の「アセットマネジメント」の場合「管理」と一言に言っても通常の「管理」より一歩進んだ考え方をします。劣化・破損してから設備の修理を行うのではなく、将来的にいつ劣化しそうか、どのタイミングで補強工事すれば長期的な目で見てコストパフォーマンス良く設備を維持できるかという考え方をします。この考え方や体制のことを「アセットマネジメント」と呼んでいます。
この考え方が生まれた背景として、高度経済成長期のインフラをたくさん「作る」時代から、そのインフラ設備を「維持する」時代になったということがあります。その背景を踏まえつつ、前項で説明した経済用語の「アセットマネジメント」のニュアンスを公共事業におきかえて作られた考え方です。納税者である国民を投資家、インフラ設備を資産と見なして、この資産の価値を増やしていくことで豊かな生活を投資家である国民に還元していこう、という構想ですね。
このように公共事業の「アセットマネジメント」の場合は、何か目に見える具体的なものを指し示すというよりかは、構想、考え方やそれを実現するための体制という意味合いでスローガンのように使います。「プロパティマネジメント」との違いお分かり頂けましたか?
京都大学大学院の河野広隆教授がアセットマネジメントの権威なので気になる方は書籍読んでみて下さいね。
類義語|公共事業の「アセット」
こちらでは公共事業の「アセット」と混同しやすい意味のカタカナ語を紹介します。
これは先述の河野教授が提唱した概念で「アセットマネジメント」の考え方にプラスで「市民との協働」という観点を取り入れた考え方です。インフラがどれくらい劣化しているか、そこにどれくらい税金を使うか積極的に自治体が自ら情報を開示したり、あるいは市民が自ら劣化しそうな設備の通報ができる体制を整えたりしましょう、という感じです。
例文|公共事業の「アセット」
「あそこの橋って結構古いよね」
「すぐに壊れることはなさそうだけど、アセットマネジメント的にはそろそろ点検したほうがいいかもね」
軍事用語の「アセット」
「ミリタリーアセット」と呼ぶこともあります。装備や設備等の物質的なものから軍人や部隊の人手まで軍を構成するもの全てひっくるめた言葉です。かなり広範な意味を持つ言葉ですね。日本語で訳せる単語はありません。「攻撃アセット」のように用途を限定する言葉を頭につけて使うときもあります。
類義語|軍事用語の「アセット」
類義語は特にありません。
例文|軍事用語の「アセット」
カタカナ語にイラッ!何故いちいちカタカナで表現するのか
ここまで「アセット」の様々な意味を解説してきましたが、そもそも論として「カタカナ語ばっか使いやがって!分かんねーよ!」とイライラしている方も多いのではないでしょうか?
実際に以前に某政権が「マニフェスト」だのなんだの、某都知事が「アスリートファースト」だのなんだの、カタカナ語を多用して、マスコミやコメンテーターが「国民に伝わりづらい」と批判するなんてこともありましたね。
このようにカタカナ語は人をイライラさせるのに何故カタカナ語を使うのか、超個人的見解を書いていきます!
日本語で訳しきれないニュアンスがあるから
「コンプライアンス」を日本語で何ていうでしょう?
「法令遵守意識」です!
日本人のほぼ100%がこのように答えるのではないでしょうか?
これは正解でもありますが、間違いでもあります。なぜなら日本語の「法令遵守意識」には「法律をきちんと守りましょう」という意味しかありませんが、カタカナ語の「コンプライアンス」には「法律だけではなく道徳的・社会的規範も守りましょうね」という意味も含んでいるからです。人の物を盗まないとか決められた基準で商品を作るとか、そうした法律以外にも差別的な言動をしないとか公共の場で大きな声で騒がないとか、こうした道徳的・社会的な規則を守りましょうという意味も含んでいます。
こうした意味までをもった端的な単語は日本語にはありません。なので「コンプライアンス」に関して言えばそのままカタカナ語を使った方が正確にかつシンプルに通じやすいのです。
このように一見伝わりづらいカタカナ語であっても意味さえ習得してしまえばカタカナ語の方が使い勝手がいいケースがあります。前述の「モジュール」、軍事用語の「アセット」はまさにこのケースですね。
従来の概念と差別化するため
これは官公庁や広告代理店がよく使う手口だなと思います。
たとえば「喫茶店」というより「カフェ」と表現した方がなんだか先進的で洗練されているように聞こえませんか?何か新しい概念を広めようとするときにカタカナ語の方が人の関心を引き付けます。「おしゃれで進んでいる人はカフェにいる」というイメージを広めたいために「喫茶店」を「カフェ」とカタカナに変換してメディアで流していった…のではないでしょうか(実際のところは不明です)。元来カタカナとは外来語に対して使うものですから、新たな概念として広めるのにカタカナ語を使うのは理に適っていますね。
前述した公共事業の「アセットマネジメント」はまさにこのケースです。今までインフラ管理といえば「不便なところに道を作ろう」や「建物をいっぱい建てよう」でしたが、今はインフラが充足してきたのでその方針を改めなければならない、ということで新しい考え方として「アセットマネジメント」が登場した訳です。多分これが「インフラ管理体制」とか「インフラ維持構想」とかいう言葉だと従来の考え方を刷新するのは難しかったのではないでしょうか。
このように新たな概念の普及を狙ってあえてカタカナ語で表現することもあります。
なんかかっこいいから
なんてちょっと必殺技みたいでかっこいいですよね(?)カタカナ語をうざいを思う人もいればかっこいいと思う人もいるみたいです。
でもコミュニケーションにおいて伝わらないというのは致命的ですから、必要な時にだけ使いましょう。あと、おしゃれは引き算も大事ですよ!「ここぞ!」というときだけに使ってみましょう。
プロジェクトに参加する前に先日の打ち合わせの議事録を確認しておいて。先方の課題に対してアジャイルな解決案をまとめてあるからさッ!
どうでしょう!「アジャイル」が際立って革新的な解決案を出してくれそうなデキるビジネスマンの雰囲気を醸し出していますね!
まとめ
「アセット」には「資産」の他に様々なニュアンスがあることお分かり頂けたでしょうか?単純に日本語で「資産」としてしまうと伝えたいニュアンスが薄れてしまいますし、日本語だけにこだわってカタカナ語を封印すると表現の幅を狭めてしまいます。
そもそも考え方の違う海外の言葉と日本語では示すものが一致する言葉の方が少ないです。たとえば、超身近な言葉である「水」という日本語ですら、英語の「water」とはニュアンスがぴったり一致しません。英語で「お湯」を表す時は「水」の「water」に「温かい」の「hot」を加えて「hot water」と表現しますが、日本語では「温かい水」とは言わず「お湯」と表現しますね。日本語の「水」は英語の「water」のように温かくはならないという点で示すものが異なっております。
このあたりは丸山圭三郎という言語論の学者が詳しく書いています。『言葉とは何か』は入門書ですので一般教養として読んでみると面白いですよ。
このような他の言語とのニュアンスの差を駆使することで日本語では表現し尽くせなかったことが端的に伝えられるようになります。「カタカナ語は訳分からん!使うのやめろ!」とカタカナ語廃止過激派になる前に「アセット」をはじめとするカタカナ語と上手に付き合っていきましょう!
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